2005年 08月 18日
カラテ追想記 NY編
二十歳前後のカラテ修行にまつわる自伝的読物を不定期に連載します。
NYに着いて かれこれ一月がたった。 皆が言うほど食事は不味くなく、この街の喧噪と白々しさは自分の性にあっている。 今日の稽古は「極真スタイル」でやることを言い伝えた。 極真自体あまり知られていないようだが、構わない。道場生も不思議そうな顔をしている者が大部分である。 基本、移動そして補強の順に飛ばしていく。 基本・移動は、日本にいたころと変わらぬ本数(全部で3000本近く)をこなす。 全員が、やったことも見たこともない補強(拳立て・スクワット等)を1000近く…。 基本の段階で年輩者と体力のない者は、外れていく。 それでもいい薬になったことだろう。 補強までついてきた者は、約40人近く…全員、ヘロヘロである。 ふだん、ここの伝統系の稽古に慣れた連中にとっては、これだけで驚異であろう。 これも「戦略」、どこを見ても馬鹿でかいここの連中と素面で「組手」をやるほど お人好しでもないし、そう自分は師に教えられてきた。 全員を壁際一列に座らせる。 いつものヘラヘラした態度や表情は見られない。 怯えた表情も見受けられる。 あとで聞いた話だが、其の時のじぶんの顔は、無表情で青白かったそうだ。 たぶんにそんな東洋人の顔など見たことがなかったのだろう。それだけでも彼等にとっては無気味だったのだろう。 「これから組手をやります。すべて当ててやります。反則は…噛みつくことぐらい」 通訳の日系人「タダシ」にこれだけを伝える。 タダシの緊張した早口の英語の中に「フルコンタクト」だけが耳に残った。 それを聞きながら道場中央に進み出る。 一つ深呼吸をする。 不思議と口元に笑みが、こぼれそうになる。 何故だかわからないが、こんな場面の時、決まってそうなる。 そう考えると余計に可笑しくもあり、不思議と気持ちの高ぶりを押さえられる。 道衣を整えながら、正面を向く。 神殿があるわけでもなく、ただ極彩色のいろいろなポスターがやけに眼につく。 不意に自分の声が頭に響く…。 今まで我慢してきたが、この国ではいらぬことだった。 それよりも自分の「力」を認めさせねば、後がない。 「負け」は「死」を意味する。 後にも先にも こんな感情になったことは、そうなかった。 「絶対に負けない。全員…倒す」 タダシの指示で一人目が、出てきた…。
by katsumi-okuda
| 2005-08-18 23:24
| 読物・語り部
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プロフィール
武道歴四十余年。主たる武道極真カラテ。昭和の名人・達人に薫陶を受け現在、私塾教育経験を活かし新たな指導法を展開。自らも日々稽古を続け、理論と実践の合一を目指しています。
道場指導以外にもスポーツクラブでのカラテ普及に努め、今まで空手に縁のない人たちに空手や武道の良さを知ってもらっています。 カテゴリ
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