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武道カラテ稽古日記

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昇段審査会…その心の内

 24日、この時期には、珍しく暖かく朝から晴天に恵まれた。
いよいよ「その当日」が、やってきた。

「審査終わったら、この風景も違って見えるんでしょうねぇ」
前日、夜大会後のレセプション後、ホテルへの帰り道、同じく受審される「仲間のお一人」新津先生が
ふと漏らした一言…
そうだうなぁ…でも。

私が、今回の審査のお話を頂いた時、さすがに緊張し少し呆然としていたことを思い返せます。
そしてしばらく、深夜自宅の机の前でしばらく考えていました。
なぜ今回の審査に挑むのか!?
無論、上から言われれば「押忍」の二文字の世界に偽りわない。
やれ、いけと言われれば、明日にでも出向くのが私たちの世界であり、私の矜持でもある。
しかし、そればかりではなかった。
正直、やりたいとも思った。
なぜなら、私は他の人たちにとって所詮「どんな人なのだろう」「どんな組手をやるか」「本当にどれくらいなのか」ほとんど知られてはいない。
特に関西方面で多くの師範、先生方そして関係者の皆様の前でやることを一つの意味として考えた。
そして、それにはやはり団体の長である長谷川最高師範の前でやることが、一義と考えに至った。

この世界、良くも悪くも曖昧模糊としたところが多い。
まったく空手など出来なくても、指導さえつつがなくこなせれば良しとする風潮も否めない。
しかし私たちは、やはり実戦の徒であり、その上に立つ者。
であるなら、若い人たちや選手の人たちのようなことは望むべくもないが、この歳にして相応の空手を出来るだけさまざまな方に見て頂きたいと思うようになったことも一つの理由。

そして、何よりは私は、一つの道場の長として「委員会」の一員、代表として臨むことの大事さをひしひしと感じていた。私が、みっともない空手をやっていたのでは、後に続くみんなにどれほどの禍根を残すか…ならばと大袈裟ではなく「覚悟」を決め、その日に淡々と備えていたのです。

今だからお話し出来ますが、左鎖骨の鈍痛は取れず加えてその下の肋骨も痛めていました。
数え上げればきりがないほど、あちこち壊れていました。
主治医の先生とも何度も相談の上、それ相応の覚悟が出来上がったのも事実。
柄にもなく、身辺整理も実は、しておりました(^^)
「審査後、できるだけ早く来院するように」とも言われました。


当日、昼まで体調を整え身体中にテーピングを施しホテルロビーで出迎えてくれる三重の松原先生と新津先生を待っているとき、あちこちに海外の選手、師範たちの姿を見かけ少し緊張し始めた自分に気がつく。

晴天の名古屋を通り抜け一路、審査会場に…
車中、他愛もない話で和やかな雰囲気、とてもこれから全員審査に臨むとは…
いや、そんな気分なのは私だけなのか…
とっくに「覚悟」はできている。
いつも以上に「穏やか」だったのは、何も天気のせいばかりでもなさそう。

審査会場は、長谷川門下の一つ「浄泉寺」にある武道場。
まだ出来て間もないとても立派な二階建ての武道場。大相撲名古屋場所でも関係者が使用するという由緒ある場所とのこと。60畳ほどある板張りの道場には、まだほのかに木の香りがした。
板張りは、私にとってやりやすい。しかし、長丁場の場合どうしても腰にくるものがあるのが少し不安。
そんなことを思いながら二階控え室で皆と道着に着替える。
一気に気が引き締まる。

今回は、前日の大会もあり海外の師範方もご列席とのこと。
長谷川最高師範、オーストリア最高齢エディ師範、スペインベルトラン師範、中国ゴン師範等そして国内師範先生方も、着席され審査会は定刻2時に始まった。

はじめは「補強」
隣にカウントのために(幸い)西岡師範がついた。
スクワット、腹筋、拳立て 各50回
この日のためということではないが、これらは私にとって「日常」
自分の調子を見るためにも…やってみると思いの外身体が軽い。
どれも、受審者中トップで通過できた。

そして、型審査。
平安から五十四歩まで、当初予定より定本師範による号令が、ついた。
号令の違いが、あるため少し緩急が曖昧になったが、別段のミスもなく終えられた。
審査席のゴン師範と目が合うとニコッと小さくガッツポーズされた。
よかったという意思表示だったらしいが、息はあがらないものの、やはり緊張しているせいか盛大に汗が、吹き出てくる。

 20分程度の休憩と準備を挟んで、いよいよ組手審査。
開始前、最高師範から受審者の年齢が、読み上げられる。
つまり、年齢に考慮した組手をやれという心遣いであり、ありがたい反面、この年齢のせいか気恥ずかしさもあった。

いつも道場をでみんなと組手をやるように二列に並び始まった。
一人目は、イギリス支部フェルナンド先生(この方の人柄も素晴らしく審査後、すぐに友達になった)
見やると肩を負傷されているようでsupporterが、痛々しくまとわれている。
「みんな、やっぱり同じなんだ」となんとなく思った。

開始の太鼓の音…。
いつも通り、注意としては相手から目線を下げない。やってる最中余計なことは考えないである。
どとうしたことか、私はいつも組手の最中、相手のことや何やら考えながらやる癖があり、時として集中を欠くことがある。そのため変な怪我をしたりなんでもない攻撃をもらうことがある。
長丁場、前半で下手な怪我だけはしたくないですよねと新津先生と話していた…。

相手も様子見、こちらも同じであり、大変噛み合う組手となり、余計に落ち着くことができた。
受審前「海外の人たちが、どう出てくるか、それが一番わからない」との情報。
でも、以外とみんな様子見というか「綺麗な組手」をやってくれるので助かった。
しかし、中には、そうでもない者も…
何人目かのスペインの選手、彼は今年長谷川道場に短期留学している人。
若いが髭面で偉丈夫…お互いニヤッとした瞬間。
結構な勢いで突っ込まれた。
相手の体重およそ100㎏…押し込まれずになんとかその重い突きと蹴りは裁くことができたが、一気に息があがりかけた。
全員が全員、こちらの意図した通りにくるはずもなく、有体に言えば「半分とは言わないが、10人くらいは、ガチでくるでしょう」と皆で話し合っていた通りの展開。
しかし、その時のために師範代やケント指導員とやりあってきたんだという強い「自信」が顔を出す。
打ち合った後「よし!!大丈夫だ。やったことに齟齬にない」と確信した前半であった。

10人で10分程度の小休止。
まだまったく息も上がっていないし、痛めてもいない。
そばには新津先生と松原先生そしてサポートに多くの見知った人たちがいるのが、何よりも心強かった。まだまだ皆、冗談が言えるほど余裕がある。

以外だったのは…実は前評判として中国の選手(女性は前日の大会で優勝している)たちは、かなりガンガンやってくるだろうと言われていたのだが、そんなことはなかった。
(ただ59人目の場合は、除き…)
皆、一応に綺麗な組手に終始してくれたのは助かったが、当たりの印象としては硬くてごつい。

こういう世界である以上、ある程度織り込み済みなのだが…
俗に言う「空気のよめない」「不器用な人」が、いるということ。
ここぞとばかりに思いっきり手足を振り回してくる人が、少なからずいる。

何度も顔面にパンチも、もらった。
しかし、意外なほど自分が冷静であったことに少し驚いた。
…やられたらやりかえす…の世界ですが、こちらは長丁場を後に控えているので、そんなに体力を使うわけにもいかず、少しイラつきもした。
言葉は悪いが、心の中で叫んでいました。
「なめんじゃねぇぞ…こちとら45年もこの世界にいる。そんな下手くそな突きや蹴りで倒れるわけアルか!!」どんな相手でも、特にそんな相手には一歩たりとも引かなかった。
俗に言う「目力」でしょうか…大抵の相手は後ずさりしていきました。
それにしても、たいして効いていないのは…
やはり、ふだんの鍛錬が、ここで顔を出してくれている。
積み上げた年月と皆で共有した厳しさと辛さそして楽しさ…
正直、ありがたいと思った。
この場には来られなかったが、門馬師範始め多くの盟友と仲間達と過ごした時間は、決して無駄ではなかった。そして、それらの思いも痛いほどわかっていた。
だから…絶対に負けるはずもない。

30人目を終え「あと半分です師範!!」「まだ半分というか、もう半分というか」
そんな冗談も、まだ言えるほどでしたから自分にしては、今日という日は好調の部類と感じた。
多くの人たちが、代わる代わる「アイシング」をしてくれる。
慣れてないので正直「寒い」って言ってしまい笑われてしまいました。

10人で幾人かが列から抜けていく。
20人、そして30人…40人新津先生も完遂され列から抜けられていく。
そして…50人以降、自分の一人旅が始まった。

当然、その場にいる全ての目が、私に注がれているのだが、まったく気にならなかった。
余裕が、あったと言えば嘘になる。
小休止を終え呼吸も心拍数も戻り、よしいける!!とまた、相手に立ち向かうとそれこそ30秒も過ぎないうちに体力が、失速していく。筋肉に力が入りづらくなってきている。
でも、幸い腕も足も動く。

何度も、疲労のピークはあった。
想定していた通り20人あたりと40人を越えたあたり。
ただ、それを過ぎるとある程度普通に「擬態」していく。

最後の5人のうち前半、三人はあまり覚えていない。

59人目、チェチュンカン!!
「最後は、自分で花道を飾れ」という温かい(!?)最高師範のお言葉で世界大会選手二人との相手。
はじめの合図とともに、どうしたことか両の二の腕ばかり狙われる。
それこそ息つく暇もなくラッシュさせられた。
後半、腕が落ちた。
くそっと何度か、反撃を試みるも、潰された。
幸いあまり押されはしなかったと思うが…定かではない。

ラスト60人目、纐纈!!
世界大会二連覇中の現役チャンピオン…
正直、ありがたいと思った。
こんな選手とやりあえるなんて、この先そうあることじゃないと思った。
…でも、体力が…さすがに底を尽きかけている。

開始の太鼓の音と共に大きな声援が、耳に全身に飛び込んでくる。
案の定…ラッシュをかけられた!!
ほとんどが、下突きと下段…さっきのチェ君といい纐纈君といい、やはり私のことを思ってくれているんだなぁと朧げながら感じたが…

中盤までは、そのラッシュも凌ぎ反撃もしたが、後半ついに体力が…
主審の定本師範のラスト15!!というダミ声が、耳に届いたが…
そんなに打たれているわけではないのだが、自分の意思に反して体が落ちかけていく…
正直、くそ!!という思い絶対に倒れないぞという意思だけが、脳裏にあった。

終わりを告げる太鼓の音…

思わず膝に手をついてしまった。

終わった…
ただ、それだけの印象だった。

促され最高師範たちに挨拶に行く、皆満面の笑顔で迎えてくれた。
そして、道場全体から温かい多くの拍手をいただいた。

本当に皆余る…

皆から賞賛の声をもらった。
本当にありがたかった。
そういう評価をくだしてくれたことに、そして、それらを成し得ることが出来たすぐそばに
…私は、皆を実感出来た。


とても60人を終えた人とは、思えないほど元気だと皆に言われましたが、多分アドレナリンのせいでしょうね。終わってから荷物を持って歩こうとしたら満足に歩けませんでしたもの。
のちに聞いた話ですが、私が受審するということで本気で救急車や医師の用意を考えてくれていたそうです。本当にご迷惑をおかけしたとも思っています。


今まで前例のないことをやってしまったようですね。
60歳で60人組手…
本当に初めは、何かの冗談かと思ってましたから…
あまり、後に続く方は、正直真似をしないほうがよろしいかと思います。
それを今になった実感もしています。

次の日から私は、普通に稽古指導に入りましたが…

多分、ここ一週間は大人しくしています。
帰宅してからの検査では、やはり入院一歩手前だと言われてしまいましたので(^^)
by katsumi-okuda | 2014-11-27 14:24 | 稽古日誌